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時事コラム:大阪府北部の地震より、大都市圏における帰宅難民について

[fa icon="calendar"] 2018/06/25 8:58:58 / by 高荷 智也

高荷 智也


 前回第9話よりBCPの一部として準備すべき「初動対応マニュアル」策定の解説を開始いたしましたが、2018618日に発生した「大阪府北部の地震」を受けまして、今回は大規模災害時における「徒歩帰宅」のお話を振り返ります。

 

平成以降初めて「大都市の通勤時間体に生じた大地震」

 平成時代もあと1年を切った昨今ですが、この30年間の内にどのくらいの「大地震が」生じているか、ご存じでしょうか。国内では1989年(平成元年)以降、1名以上の死者が生じる地震が24件発生しています。内訳を見ると、休日の発生が10件で平日は14件。平日のうち深夜の地震が6件、通勤時間帯が2件、日中が3件、夜間に3件が生じています。(※いずれも本震発生時間のみで、余震や小さな本震は除く。) 

大阪府北部の地震以外で平日の通勤時間帯に生じた地震は、2011年6月30日の8時16分に発生した「長野県中部地震(松本地震)」で、死者1名・負傷者17名の被害が生じています。つまり大阪府北部を襲った大地震は、平成以降では初めてとなる「大都市」の通勤時間を襲った大地震という特長を持つことになったのです。

 

被害が限定的だったのは「地震の規模が小さかったから」にすぎない。

 「大都市直下・通勤時間帯」という地震の発生状況を考えると、死者数万人を数える大震災となってもおかしくなかった今回の地震。過去の大地震と比較すれば現在の所、被害規模は小さなものに留まっています。その理由のひとつが、「地震の規模が小さかった」というものになります。

気象庁発表による地震のマグニチュードは6.1、これは前述の「平成以降で死者1名以上」を数えた24件の地震の中では、下から数えて2番目に小さい規模です。地震の影響はマグニチュードだけでなく、震源の深さ(浅いほど被害は拡大)や位置(都市直下ほど被害は拡大)が関連して定まる「震度」の方が重要ですが、その震度も「6弱」と“大地震”の中では小さな方に該当します。

 つまり、「大都市直下・通勤時間帯」にも関わらず被害が小さかったのは、たまたま地震の規模が小さかったからであり(もちろん日頃の防災対策の成果でもありますが)、これは「ラッキー」にすぎないということでもあります。通勤時に大地震が生じてもたいした被害は生じない、のではなく、たまたま地震の規模が小さかったために被害も小さかった、と考えなければ足をすくわれかねません。

 ※もちろん死者が出ている地震ですので、そうした状況を無視して「被害が小さかった」と語る物ではありません。ただBCPの場合、大地震による人的被害は、倫理的な面よりも「業務継続」の視点で考慮・事前準備をすることになるため、今回の様な表現としております。犠牲者の皆様へはお悔やみとお見舞いを申し上げます

 

 

「徒歩帰宅」の経験値を次の震災に生かしてはならない

 以前に公開をしたブログ記事『BCPの前提!企業の防災対策 第6話「帰宅困難者対策」(https://blog.bitis.co.jp/bcp-blog7)』で、帰宅困難者対応に関する解説をしております。

 2011311日の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)では、直接的な被災地ではなかった首都圏においても、JRをはじめとする鉄道がストップし、515万人という膨大な「帰宅困難者」が発生しました。この時、長い距離をがんばって徒歩帰宅された方も多かったかと思います。そして「大変だけど、なんとか歩いて帰れる」という経験値を持たれた方も多いのではないでしょうか。

 一方、首都圏でも「首都直下地震」が近い将来に発生すると想定されています。過去の歴史をみれば、首都圏を大地震が直撃することは確定事項で、「起きるかどうかではなくいつ起きるのか?」というレベルで議論しなければなりません。そしてこの時、「東日本大震災の時は歩いて帰れた、だから首都直下地震でも歩ける、実際大阪の地震ではみんな歩いていたし」と考えることは、生死に関わる極めて危険な事項です。

 東日本大震災時の首都圏、あるいは大阪府北部の地震、大都市の公共交通機関が停止して多くの帰宅困難者が発生した事象は共通しています。しかし「歩いて帰るのが大変だった」という経験値は、BCP策定における参考にすべきでない内容です。本来は、「大地震が発生した場合、少なくとも3日程度は会社に留まり、安全が確保されるまで徒歩で帰宅することは避けなければならない」と考えるべきなのです。

 

3日分の防災備蓄、従業員の家族の安否確認の準備を再確認

 多くの徒歩帰宅者が路上を埋め尽くしている状態で、大規模な余震やより大きな本震が発生した場合、建物の倒壊、道路の破壊、火災旋風の発生、あるいは人の集中による「群衆雪崩」の発生により、多数の死傷者が生じると考えられています。そのため、例えば東京都などは、2012年に「東京都帰宅困難者対策条例」を定め、企業に対して3日間、従業員を帰宅させない準備をすることを努力義務としています。

 しかし、企業が防災備蓄に励んでも、そこで働く個々の従業員が、「多分大丈夫」とか「前の時は歩けた」などと考え、勝手に徒歩で帰宅を開始してしまっては意味がありません。「大地震が発生した場合、大都市中心部の徒歩移動は生死に関わる」と考え、安全が確認されるまでは移動をしないという意識や、そのために必要な道具の準備が重要です。

 企業の場合は、3日分の非常用トイレ・水と食料・毛布や就寝道具・その他日用品などの備蓄を行うことを始め、従業員の家族の安否確認ができるよう準備することも重要です。家族の安否が確認出来ない場合、企業が備蓄品の準備などをしていても、従業員は無理矢理帰宅を開始します。従業員の安否確認訓練をする際には、その家族の安否チェックも行うよう、防災訓練の内容を工夫するとよいでしょう。 

Topics: BCP情報

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