Bitis ブログ

防災のキホン:東日本大震災10年目、熊本地震5年目から今学ぶこと(後編:帰宅困難対策)

[fa icon="calendar"] 2021/03/19 10:00:00 / by 高荷 智也

高荷 智也


帰宅困難者  

 先日、兵庫県明石市に防災講演会の仕事で出張をしてきたのですが、その際にJR神戸線・朝霧駅に立ち寄って参りました。この写真は朝霧駅と、その前の公園を繋ぐ国道にかかっている「朝霧歩道橋」です。ここは、まもなく20年目を迎える「明石花火大会歩道橋事故」の現場で、写真中央、歩道橋左端に小さな慰霊碑が置かれています。

 68_01


 この事故は、2001年7月21日に実施された花火大会で生じたものです。写真の歩道橋上に花火大会の見物客が集まりすぎ、身動きが取れなくなったことで「群衆雪崩」と呼ばれる現象が生じ、子ども9名を含む11名が死亡、247名の重軽傷者が発生した大事故です。
 この群衆雪崩と呼ばれる事故そのものについても、再発を防ぐべき重大な教訓を残したものとなりましたが、じつはこの現象が、近い将来に発生が想定されている「首都直下地震」をはじめとする、大都市圏での大地震でも生じる可能性があると言われているのです。


■東日本大震災や大阪北部地震で会社員が得た「成功体験」

 先日で10年目を迎えた「東日本大震災」では、直接的な被災地とならなかった首都圏でも強い揺れに襲われ、JRをはじめとする多くの公共交通機関が終日運行を停止したこともあり、515万人という膨大な数の「帰宅困難者」が発生しました。皆さまの中にも自宅に帰れなくて困ったという方がいらっしゃるかもしれません。
 また2018年6月18日に発生した大阪府北部地震でも、多くの交通機関がしばらく運休となりましたが、地震発生が朝の7時58分と通勤時間を直撃したこともあり、出勤された方、自宅に戻られた方、など徒歩で移動された方が発生いたしました。

 こうした帰宅困難問題は、近い将来の発生が想定されている首都直下地震、大阪の上町断層帯の直下地震など、大都市であればどこでも再び生じると想定されています。しかし、東日本大震災や大阪府北部地震で「歩いて帰ることができた」という成功体験を持っている方、あるいは家族や同僚からこのような体験談を聞いたことがある方については、注意が必要なことがあるのです。それは、「東京が被災地になった状況で歩いて帰ると、死ぬかも知れない」という想定です。

■首都圏や大阪中心部は被災地ではなかった

 3.11東日本大震災当時の首都圏、あるいは2018年大阪府北部地震における大阪中心部は、震度5弱~5強という強い揺れに襲われたものの、都市中心部が直接的な被災地にはなりませんでしたので、大規模な被害は免れました。具体的には以下の様な状態です。

・道路やビルが直接破壊されたわけではないため、歩道の通行には特に支障がなかった。
・ 大規模な火災も生じてはいなかったため、道中に危険な箇所は少なかった。
・ 3.11時は都内での停電も生じていなかったため、夜間も街灯はついていた。
・ 途中のコンビニや公共施設でトイレを使ったり、休息をとったりすることもできた。

 しかし、大都市の直下で大地震が発生し、直接的な被災地となった場合は、多くの被害が想定されています。破壊された道路、余震のたびに頭上から降り注ぐビルの外壁や看板、周囲では大規模な火災が発生し、停電が生じていれば街灯もなく、コンビニ等のトイレも利用ができなくなり、避難所は地域の住民で溢れかえり、さらに河川の橋が破壊されれば身動きが取れなくなってしまいます。

 この状況で、前回の「成功体験」を持つ多くの帰宅困難者が一斉に徒歩帰宅をおこなうと、大惨事になる可能性があります。実際、各地のターミナル駅周辺では人が溢れかえり、「その辺りの路上」が満員電車並みの人混みになるシミュレーション結果なども得られております。1平米当たり6名以上、6畳間に116名以上が詰め込まれるような混雑が、都内の各地で同時に生じる可能性があるのです。

 この状況で強い余震などが発生した場合、危険を避けようとする人々でパニック状態となり、「群衆雪崩」による死者が発生してもおかしくないと想定されています。


68_02


■都市部で大地震に巻きこまれたら、すぐに帰宅しない

 このような被害を避けるためには、大地震直後は「すぐに帰宅しない」ことが重要になります。そこで東京都などは2012年に「帰宅困難者対策条例」を制定、愛知県や大阪府でも同様のガイドラインを作成し、企業に対して「オフィス内の地震対策」の徹底や、「3日分程度の防災備蓄」の準備、また従業員と家族の安否確認が行える様、日頃から訓練などを実施させるなどの、努力義務を課しています。

 こうした企業の備蓄なども活用し、大地震発生後、周囲の状況が落ち着くまでの3日間程度の期間は、できるだけオフィスなどに留まり、すぐに帰宅を開始しないことが「命を守る」対策として重要になるのです。個々人の対策としても、会社の泊まり込みに必要な物品を準備したり、家族と安否確認手段を決めておいたりという対応を、ぜひ行ってください。

 



===============================================================

災害が増えつつ今、災害対策マニュアルの準備はできていますか?
初動対応マニュアルの必要性とマニュアルを作成するにあたっての
構成要素やポイントをまとめました。ぜひご活用ください。

初動対応マニュアル「構成要素と作成ポイント」

 ===============================================================

災害が増えつつ今、災害対策はできていますか?
『企業が行うべく「人命」を守る防災項目リスト』をご用意いたしました。
リストを使って、今一度御社の災害対策ができているか見直しませんか?

 企業が行うべき「人命」を守る防災項目リスト

=============================================================


Topics: BCP情報

あわせて読みたい

高荷 智也

Written by 高荷 智也