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BCPの前提!企業の防災対策 第6話「帰宅困難者対策」

[fa icon="calendar"] 2018/02/09 9:47:22 / by 高荷 智也

高荷 智也


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 BCPの前提として行う「従業員の命を守る防災対策」。「地震対策」「避難の準備」そして「初動対応」に続く今回は「帰宅困難者対策」です。特に都市部に事業所を構える企業において、大地震などの広域災害時に必要となります。

「徒歩帰宅で命を落とす」という状況

 防災対策と言えば、まず「水と食料の備蓄」を思い浮かべる方が多いと思います。しかし日本において、災害時に食料不足が原因で餓死をするという状況はほとんど考えられません。従業員の命を守るための防災備蓄は、「徒歩帰宅」による危険を回避するために実施します。

 

東日本大震災における帰宅困難者問題について

 2011年の東日本大震災では、公共交通機関の停止により首都圏で500万人を超える帰宅困難者が発生しました。そこで東京都は2012年に「帰宅困難者対策条例」を制定。大地震などの大規模災害が生じた際、企業に従業員を3日間帰宅させないため、防災備蓄や安否確認の準備を行うよう努力義務を課しました。

3日間従業員を帰宅させない理由、それは従業員及び地域住民の命を守るためです。前述の通りこの際に想定する死因は餓死ではありません。まして「お腹が空いたら困るから」とか「ないよりは、あったほうがいい」という単純な理由ではなく、より直接的なリスクを回避するための準備となります

 

大都市で直下型地震が生じた場合に徒歩帰宅をするとどうなるか

 2011年の東日本大震災では、JRを中心とした通機関が軒並み停止をしたことで、多数の帰宅困難者が発生し問題となりました。しかし震源が東京直下ではなかったため、電気・ガス・水道などのインフラは無事。私鉄やバスも動いている。コンビニや商店も営業しているという状況が続きました。「歩いて帰るのが大変だった」「翌日出社できなくてこまった」という程度の問題で済んだこともまた事実だったのです。

 しかし、首都直下地震や、大阪の上町断層直下地震などが生じた場合は状況が大きく変化します。直下型地震が大都市を襲った場合、建築物や道路の破壊、落下物の発生、などが多数発生するため、徒歩帰宅自体が危険な行為となります。数百万人の徒歩帰宅者で身動きが取れなくなっている場所に大きな余震などが発生すれば、落下物などで大きな被害が生じるためです。

 また例えば、首都直下地震が発生した場合、都心をぐるりと囲むドーナツ状の木造住宅密集エリアで大規模な火災が派生することが想定されています。徒歩帰宅者は都心部から郊外を目指しますが、情報を得ることが困難になっていますので目の前が火の海になっていることに気づけません。満員電車状態になっている道路に、多数の落下物と火災が襲いかかってくれば、多数の死傷者が生じる可能性があるのです。

 大都市を大地震が生じた際、従業員をすぐに帰宅させることは、そのまま命を落とさせる行為に直結する可能性が高い。だから状況が落ち着くまでの3日間、従業員を社内にとどめるための準備が求められます。電気・ガス・水道・トイレ、また近隣の商店が全てマヒ状態に陥りますので、社内に備蓄品がなければ従業員をとどめることができません。そのため、命を守る防災備蓄が必要になります

 

従業員の徒歩帰宅が地域住民の命を奪うという問題

 1995年の阪神・淡路大震災や2016年の熊本地震では、多数の建物が倒壊して多くの生き埋め被害者が発生しました。また神戸では大規模な火災が発生し、被害を大きくする要因の一つとなりました。火災から逃れるためには素早く生き埋め被害者を救助する必要があります。また火災がなかったとしても、被害発生から72時間が経過すると救助できる可能性が低くなるため、やはり迅速な活動が重要です。

 多数の生き埋め被害者が発生した場合、本格的な救助活動にはレスキューや自衛隊の活動と、多くの重機や資機材が必要になります。こうした人員を外部から被災地へ送り込むためには、輸送路を確保する必要がありますが、道路の破壊や建物による道路の閉塞で道路がふさがれてしまい、素早い移動が困難になる問題が想定されています。

 企業に防災備蓄がなければ、従業員は徒歩帰宅を選択せざるを得ません。しかし緊急輸送路が帰宅困難者であふれかえると、徒歩帰宅者の存在が緊急車両の通行を妨げるという問題が発生します。徒歩帰宅者はただ歩いているだけです。しかし数百万人という数が問題になり、ただ歩くという行為が救助活動の妨げになる可能性があるのです。

この場合、都内の主要な幹線道路は軒並み会社から自宅へ向けて移動をする帰宅困難者であふれかえり、各所の道路が満員電車のような混雑になると想定されています。こうなると、緊急車両や重機を移動させることが難しくなり救助活動を行うことができなくなるため、多くの人命を失う結果につながりかねません。つまり、防災備蓄のない企業が従業員を帰宅させた場合、被災者の命を失わせるということにつながりかねないのです

 

従業員を帰宅させないための準備

 このような理由により、特に都市部で大規模災害が発生した際の備えとして、従業員を帰宅させないための準備が必要になります。この際に最も重要な備蓄品が非常用トイレです。水・食料の配布は多少遅れても問題ありませんが、トイレの需要は災害直後から生じるため、まずはこれを必要量備蓄することが最優先となります。その後、水と食料、日用品、就寝道具などを準備します。具体的な防災備蓄の流れについては次回、詳しくご紹介します。

  

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