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緊急地震速報チャイム誕生の裏話 第3話「FM音の驚くべき役割(その2)」

[fa icon="calendar"] 2019/06/18 12:00:00 / by 伊福部達

伊福部達

 

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シリーズ「緊急地震速報チャイム誕生の裏話」の3回目です。今回はFM音とコウモリに関するお話を伺いました。

 


<コウモリのFM超音波>

 暗闇で何の音もしないような場合であっても、生存するためには近寄ってくる物が何であるかを認識しなければいけない。動物の中で、暗闇での聴覚を極限まで研ぎ澄ませたのが「コウモリ」である。コウモリの多くは自ら音を発信して、跳ね返ってくる音を聴くことで物体を認識する。これを“エコー・ロケーション(反響定位)“という。レーダーは電波の反射を利用して遠くの物体を検出するが、コウモリは超音波でこれを行っている。すなわち蛾などの餌を見つける際に、超音波を発信して、跳ね返ってきた音を聴いて「これは石ころだ」「これは蛾だ」と区別している。筆者は聴覚の研究の一環として、コウモリのエコー・ロケーションの能力を調べたことがある。そして、今年の春の音響学会でエコー・ロケーションを応用した「風呂場での溺水防止システム」について発表した。古希を過ぎてからの学会発表であるが、その内容は後述する。

 

<FMコウモリを捕獲>

 40年近く前になるが、日本の代表的なコウモリであるモモジロコウモリを千歳にある洞窟で捕獲し、それらの出す超音波を調べてみた。ただ、大きな虫取り網で捕まえようとしても、網の直前でくるりと向きを変えて逃げるので、捕獲は簡単ではなかった。結局、洞窟の天井にある穴にこもって休んでいるコウモリ2頭を無理やり引っ張り出して研究室に持ち帰った。彼らに「モモタロウ」、「モモジロウ」という名前を付けて、一人の大学院生が半年ほど飼育し、彼の修士論文のための研究に付き合った。

 発声する音を調べた結果、このコウモリは1ミリ秒の間に80kHz~40kHzに急激に下降するFM超音波を出していることが分かった(図1)。実は、反響定位を行うコウモリは世界で800種類以上いるが、彼らは何らかの形でFM超音波を使っているのである。

 

 第3話_図1 第3話_図1_2

  FM Bat モモジロコウモリ

図1 FMコウモリが発射する超音波の時間スペクトルパターン

 

 筆者らは、研究結果を踏まえて、コウモリの出す超音波をコンピュータで作ってスピーカから放射させ、メガネのフレームに取り付けた左右2チャンネルの超音波マイクロホンで検出する視覚障害者用の「超音波メガネ」を開発した(図2)。このメガネでは検出した反射音をコンピュータに取り込んでから50倍に引き伸ばして、ヒトの耳に聞こえるように変換し、2チャンネルのヘッドホンで聴取できるようにした。この引き伸ばしで、80kHzの音は1.6kHzの音に、40kHzは800Hzになるのでヒトの耳の感度の良いところで聞こえるようになる。

 

第3話_図2

図2 FMコウモリをモデルとした視覚障害者用の超音波メガネ

 

 その音を両耳で聞きながら色々な太さの丸い棒(ポール)をゆっくりと被験者の前に持っていき、それが分かったら手を挙げてもらうという実験を行った。その結果、一定の周波数の超音波よりもFM音を放射した方がはるかに感度が良いことが分かった。たとえば、FM超音波では直径2ミリのポールが90センチ前方で検知できるのである。また、頭の中で聞こえる音の方向からポールの方向までも類推できた。研究の中心となった大学院生は、この結果をまとめて修士論文にしたが、その謝辞には「モモタロウ」と「モモジロウ」に深く哀悼の意を表すと書かれていた。

 視覚障害者用の超音波メガネは実用化には至っていないが、FM音が環境を認識する上でも極めて重要な役割を果たしていることが明らかにされた。その後、FM音を発射できる超音波素子が世界的にも製造されなくなり、この手の研究は途絶えていた。ところが最近になって「スーパー・ツイッター」と呼ばれる超音波素子が開発され、再び超音波メガネが現実的なものとなった。

 

<FM音を活かす「福祉工学」>

 一方、最近、浴槽内での溺死者が急増しており、昨年は約6千人に達し、それが誘因となって浴室内で死亡する人も含めると1万人を超えるとのことである。その多くは高齢者であるので超高齢社会に突入した我が国ではますます増える恐れがある。カメラを使って監視すれば良いのであるが、実際には浴室や公衆トイレなどのプライベート空間でカメラは利用できない。そこで再び超音波メガネを開発し、それを浴室内に取り付けた。溺死に至る寸前までの動きを調査し、風呂やトイレを作るメーカの研究者にその動きを訓練して浴室内で再現してもらった。冒頭で述べた音響学会では、この研究で得られた結果について発表した。

 詳細はその発表論文集に譲ることとし、その反射音から想像を超える精度の高い溺死予防の可能性が示された。要点をいうと、風呂内が蒸気で満ちて見えにくくても、カーテンがあっても、シャワーのような雑音があっても、浴室内のヒトの動きだけを捉えて、その動きからかなりの精度で溺死に至る前に「警報音」出して、溺死を回避できることが分かってきたのである。図3は浴槽内に設置した超音波メガネと溺死に至る可能性のある時に警報音を出している様子を示している。このように危険な状態に陥っている高齢者や障害者を技術で助ける分野を我々は「福祉工学」と呼んでいる。

 

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図3 FMコウモリをモデルとした浴室内の事故予防センサ

 

 前回の「キャーッ」にしてもコウモリにしてもFM音が危険を知らせる音として、環境を知る音ととして、知らず知らずに使われていた。この音が緊急事態であることを察知して、速やかに避難行動をとれるようにする上でも、驚くほど大きな役割を果たしていることが分かってきた。FM音を緊急地震速報チャイムに利用した理由の裏付けが一つ増えた。

 

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Topics: コラム

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