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緊急地震速報チャイム誕生の裏話 第4話「警報音のメロディー」

[fa icon="calendar"] 2019/07/16 9:00:00 / by 伊福部達

伊福部達

 

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シリーズ「緊急地震速報チャイム誕生の裏話」の4回目です。今回は警報音のメロディーに関するお話を伺いました。

 


<警報音のメロディー>

インタビューでは2回にわたって、叫びの「キャーッ」やコウモリの「ピュッ」のようなFM音が危険を知らせ、環境を認識し、遠くからでも聞き取りやすいことを述べた。先日、NHK総合TVの人気番組「チコちゃんに叱られる!」を見ていたら、怖い時になぜ「キャーッ」を発するのかがチコちゃんの質問として採り上げられていた。それに答えた研究者は「キャーッ、は瞬時に大きな声を出すのに適した音」であり、「息をためて一気に放出する破裂音“キ”を使っているので爆発的な音になる」と話していた。「キャーッ」については聞き取り側の都合だけではなく、とっさの時に発音しやすい声でもある。その研究者は昔大変お世話になった新見成二先生(国際医療福祉大学・教授)であり、TVを通してお元気そうな姿をみることができた。

 

第4話_図

 

話は戻るが、FM音が幾らヒトの注意を惹き、遠くから聞こえる声だとしても、それをチャイム音にそのまま利用できるわけではない。また、泥棒の侵入を知らせるブザーや火災探知器のアラームなどの告知音もあるが、それが何を意味していているかは、あらかじめ覚えておかなければならない。

緊急地震速報のチャイム音はその意味を覚えなくても、「危険だ」「逃げろ」というメッセージが込められていることが求められる。そのためにはチャイム音に「メロディー」を付けるべきであろう。その意味で、チャイム音の製作は作曲家に依頼した方が良いことになる。しかし、作曲家は、情緒や感性に訴えるメロディーを作ることはできても、避難を促すようなメッセージを科学的・理論的に作り出すのは苦手であるのでは、と思った。

一方、音響学や心理学などを研究している科学の専門家はどうであろうか。彼らは音響の物理的な構造と、その音響が心理に与える影響の因果関係を探るのが主たる研究内容である。しかし、因果関係が分かったからといって、避難を促すメロディーを作ることは容易ではないのでは、と思った。つまり、緊急地震速報チャイムの製作者は、音楽と科学の両方の要素を兼ね備えていなくてはならないことになる。

筆者にチャイム音の制作の話がきた時には、とても命にかかわるような音を素人が作れるとは思わなかった。また、自分で満足のいくチャイム音ができたとしても、それが多くの人たちに受け入れられず、さらには何故あんな音にしたのかと非難される恐れもある。その上、チャイムのメロディーが過去の音楽で使われていて、著作権で訴えられる可能性もでてくる。考えれば考えるほど悲観的になってしまうのであった。それで音楽と科学の両方に精通している人たちの候補をあげて、それを依頼者のNHKに告げた。しかし、もし、その候補者に断られたら、緊急地震速報システムが半年後に正式に開始されるのに間に合わなくなってしまうと言われた。そのため覚悟してチャイムに求められる音の条件を整理し、筆者でも制作できそうかどうかを自問自答した。

 

<快適な音、不快な音>

まず、そのメロディーはあまり快適でも、不快でもないことが条件の一つであろう。子守歌のようなメロディーだととても逃げる気はしないし、逆に、ライオンが襲い掛かるときのようなメロディーだと恐怖感で体がすくんでしまう恐れがある。

筆者は、このような音の快と不快の心理の関係は、聴覚が形成されたサカナの時代に獲得されたのではないかと考え、再び原点に戻ることにした。繰り返し述べるように、人間の内耳にある基底膜とそこに配列されている有毛細胞はサカナの側線器が進化したものといわれており、それらは海水とほぼ同じ成分のリンパ液で包まれている。

サカナの場合、平穏な海水の動きは一定の流れがあり、それを有毛細胞が捉えて脳に伝え、快適性や安心感を与える。一方、外敵が迫ってくる時にはその流れが不規則に乱れることで、不快や不安な感じを生じさせるとともに、「逃げる」という行動を促す。ヒトの場合も、蝸牛の基底膜が規則的な振動パターンのときには、脳は快適あるいは安心と感じ、逆に、基底膜の振動パターンが不規則になっているときには、不快で不安を感じるのであろう。そして、飛躍が許されるとすれば、前者は「協和音」に通じ、後者は「不協和音」に通じるのではないかと考えた。

そう思って専門書を読んでみると、「協和性」については多くの仮説があり、また、感じ方も人によって様々であり、そんな単純なことではないことが分かる。改めて、作曲家の叔父・伊福部昭が書いた「完本 管絃楽法」(音楽之友社、2008)(図1参考)をめくった。これは1953年に書いた上巻と1968年の下巻を一冊にした完本で、叔父が2006年に亡くなるまで校正をしていたのを、弟子達や筆者も含む親戚が協力して完成させた500頁を超える大作である。

2音が同時に鳴ったときの「音の協和と融合」というところを読んでみると、そこだけでも8頁にもわたり、約10個の仮説を紹介しながら、協和と融合の説明をしていた。多忙だった叔父が、いつの間にこのような多くの文献を集めて読み、それぞれに考察を加えて「管絃楽法」で紹介したのか、改めて感心させられた。ただ、和音によって、なぜ不安な心理的効果をもたらすかは、様々な説があり科学的に証明されているとはいえないようである。また、民族や育った環境によっても感じ方は変わってくるとも言われている。次回では、過去の諸説に逆らわないように、チコちゃんに叱れないように気を使いながら、緊急地震速報チャイム・メロディーの候補を提案した過程を話したい。

 

第4話_図1

図1 伊福部昭「完本管絃楽法」(音楽之友社、2008、535頁

 

 

 

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Topics: コラム

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