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緊急地震速報チャイム誕生の裏話 第6話「チャイム音に求められる五ヶ条」

[fa icon="calendar"] 2019/11/22 9:00:00 / by 伊福部達

伊福部達

 

第6話

 

 シリーズ「緊急地震速報チャイム誕生の裏話」の6回目です。今回は緊急地震速報チャイムに求められる五ヶ条に関するお話を伺いました。

 


 一般に地震の時にはドスンと来る縦波のP波から始まり、その後にユラユラと揺れる大きな横波のS波が到達する。緊急地震速報とは、P波を検知した後、最大で震度5弱を超える地震になるようであれば、次に来るS波の前に人々に知らせるためのチャイムとそれに続く通報の音声である。図1に示したように、震源地の近くであればP波とS波の時間差はわずか数秒しかなく、その間に地震速報を出さなければならない

 

第6話_図1上 
第6話_図1下

図1 初期波(P)を検知し、その後に最大震度5弱の地震(S)が
来ると予想された時に緊急地震速報を発信

 

 

 2007年の4月、私はNHKの放送技術研究所の会議に呼ばれ、チャイム音の構想について尋ねられた。その時には、今までに考えたことを纏めて、以下に述べるように、緊急地震速報チャイムに求められる五ヶ条を提案した。

 

 (1)注意を喚起させる音であること
 (2)極度に不快でもなく、あまり明るくも暗くもないこと
 (3)すぐに行動したくなるような音であること
 (4)既存のいかなる警報音やチャイム音とも異なること
 (5)できるだけ多くの聴覚障害者に聴こえること

 

 さらに、私はこの五ヶ条を満たすような「楽曲」を探し当て、そのメロディーや和音を操作すること、音源操作によって原音を推定できなくすること、その楽曲を利用する場合に著作権に抵触しないこと、なども補足として提案した。いずれも難題であったが、これら提案は人の命に関わる重要な音作りなので何とかクリアしなければならない。以下に、五ヶ条を一つひとつ検証してみた。

 

(1)注意を喚起させる音であること

 当然のことであるが、注意を惹くことがまず優先され、周囲の雑音に紛れて聞こえないようでは意味をなさない。これに応えるものとして、第2話と第3話で述べたように、叫び声の「キャーッ」やコウモリの出す「ピュッ」というFM音、およびそれに準ずる和音をアルペジオ風にした音が相応しい。

 

(2)極度に不快でもなく、あまり明るくも暗くもないこと

 ホラー映画の効果音のように恐怖をあおるものだと、聞かされる方の頭が疲れてしまう。特に、余震が連日にわたり何度も発生し、繰り返し聞かされても冷静にしていられる音であることが望ましい。言うまでもなく、あまり明るい音だと逃げ出そうという緊張感がないし、あまり暗いと動こうという気にもならない。これには協和音と不協和音の混ぜ方で何とかクリアできるかも知れない。

 

(3)すぐに行動したくなるような音であること

 緊急地震速報が出てからS波が来るまでの時間は、場合によっては数秒間の猶予しかないことを考えると当然の条件である。しかし、この条件は想像以上の難題である。ある心理学者が、映画の砂漠の中で汗をかきながら、また喉の渇きを感じながら、とぼとぼと歩いている場面で、観客が気付かないように瞬間で何回も飲み物のコーラの画像を流した時の観客の反応を調べた研究がある。ほとんどの観客は喉の渇きを訴えたが、映画館に設置されているコーラの自動販売機まで行って、それを飲もうという行動までには至らなかったという。これは「サブリミナル(深層心理)」の研究であるが、地震のチャイム音でも危険を感じさせたとしても、逃げようという行動までを促すのは容易ではことではないことを物語っている。

 

(4)既存のいかなる警報音やチャイム音とも異なること

 これも結構難しい条件である。近年、様々な電子音やアラーム音に囲まれているが、それらと違う音色やメロディーを作るという問題である。ゲーム機の音や駅のチャイム音と似ていて気付かなかったというのでは困る。私は2002年から東京に住むようになったが、各駅で鳴るチャイム音という騒音ともいうべき音でしばらく悩まされた。特に、上りと下りの電車が同時に駅に着くときに同時に鳴らされるチャイムには未だに慣れることができない。また、これだけ多くの駅構内のチャイムと違う音を作るというのも無謀とも思われた。さらに、苦労して作ったとしても、それが既にある楽曲と同じメロディーであれば著作権に引っかかる可能性も出てくる。

 

(5)できるだけ多くの聴覚障害者に聴こえること

 この条件は私が聴覚障害者のための支援技術の開発が専門の一つであることで、その点については特に重点を置いた。日本では、高齢者人口の増大などで、聴覚障害(近くで発声された会話語を理解し得ない程度)に苦しむ人は、2008年の約500万人から現在(2019)550万人に増加したと推定されている(日本経済新聞2019.9.3)。WHO(世界保健機構)によると、世界的にも増えており、2050年には現在の推計約47千万人から9億人に達する可能性があると発表している。超高齢社会に突入してから、高齢化による難聴は急激に増えており、しかも難聴といっても極めて多様なので、この条件に応えるのは重要であるが決して容易ではない。

 

 NHKの会議でこの五ヶ条を提案したのであるが、これらの条件を満たす音作りは至難の業であることも気がついていた。地震チャイムの話がきた時には、今までに聞いた色々なメロディーが蘇ったのであるが、実際に参考にしたのは叔父の純音楽である。その経緯は次回話したい。

 

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Topics: コラム

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