Bitis ブログ

高齢社会を豊かにするテクノロジーを求めて  第2話 高齢化の推移を直視する

[fa icon="calendar"] 2020/12/01 9:12:20 / by 伊福部達

伊福部達

 

第2話

 

 シリーズ「高齢社会を豊かにするテクノロジーを求めて」の第2回目です。「高齢社会」の現状についてのお話です。

 

 

 

 我が国の高齢化を話題にするときには、必ず高齢化率つまり65歳以上の人口比が諸外国に比べていかに高いかという話から始まる。そして、もっと大変なのは日本の人口減少が急速に進むことだという話になっていく。共に、社会保障費の負担や労働者人口の減少と結びつき、経済はどうなるのか行政は何をすべきなのかという果てしない議論が続いている。また、自分たちの将来を想像して悲嘆にくれてしまう若者たちも少なくないであろう。そこに最近の目まぐるしく進歩を遂げているICT(情報通信技術)、ロボット、人工知能(AI)などのテクノロジーを活かして将来を明るくする道はないのか、というのが本ブログのテーマである。まずは、漠然とした不安を抱える前に現実や近未来を直視することから話を始めよう。

 

〇長い目で見た人口動態

 

第2話_図1
図1 長期的に見た人口動態

 

 図1は西暦800年から2100年までを俯瞰した日本の過去の人口と将来の推計値を示したものである。2012年に国土交通省が過去の国勢調査データを基にして作成されている。これを見ると明治維新の約3千3百万人から急上昇し2004年にピーク(約1億3千万人)に達してから、今度はジェットコースターのように急降下すると予想されている。2100年には多く見積もっても人口は約6千万人、少なく見積もると何と約3千5百万人となる。この種の統計は有無を言わせず実際と良く合致するので、恐らくこのカーブを描いていくのであろう。地震の起きる予測は難しく、台風の進路予測も時には大きくずれることを考えると人口動態予測も当てにならないと思う人がいるかも知れない。しかし、大型タンカーが急に進路を変えろと言われても、図体が大きいため進路変更は直ぐにはできないのと同様に、人口動態の予測も膨大なデータから算出されるので、その予想値も急には変わらないのである。

 今から100年後に過去を振り返って見ると、2004年を中心として瞬間的に人口が増減した期間は極めて特異な時代であったという話になるであろう。この急増・急減に目を奪われるかも知れないが、問題なのは人口が減少しながらも高齢化率は増加し続けることである。国勢調査に基づく予測によると、高齢化率は2010年に20%を超えてから2100年までには40%を超えると推計されているのである。この近未来の急激な変化を想定して経済や行政の在り方、さらには高齢になってからの生きがいどこに求めるかが盛んに議論されている。それに対して、現役の若い人たちは、意外と楽観的なように感じる。あるいは、そんなことを考える余裕がなく、今をどう過ごすかで精一杯なのかもしれない。

 人口動態を変えるために子供を増やせば何とかなるという考え方があるが、そのための意識や制度を今から変えただけでは統計学的には到底間に合わない。移民を増やせば良いのではという考え方もあるが、そのための財源や教育をどうするかという問題があり、世界中で高齢化が進むので移民の取り合いになってしまい、結局高くつくことになる可能性もある。では、労働力については、現在急速に発展し広がり続けているICT、ロボット技術、AIに任せれば良いのではという考える人もいるが、これには幾つかの落とし穴がある。この落とし穴についてもこのブログで私見を述べていきたい。

 それでも時代の超高齢化と呼応するようにAIやロボットさらには遺伝子工学などのテクノロジーは革命的ともいえる進化を遂げている。この先端テクノロジーは新しい時代に向けての神からの贈り物のような気がする。そして、このテクノロジー群あるいは「食材」というべき贈り物をどのように料理すれば良いかが問われているような気もする。先陣を行く日本がまずその試験を受けることになるが、日本だけでなく世界の国々が同じような問題を抱えることを考えると、日本は得られた回答やお手本を見せる重要な立場になっているともいえよう。

 

〇近未来に解くべきこと

 

第2話_図2図2 近未来の年代別人口動態

 

 話をもう少し近未来に戻し、現実的なものにしよう。図2は2050年までの年代別の人口の割合を示したものである。これも2020年以降は推定値であるが、統計学的には確実な値であろう。ここで注目して欲しいのは、65歳以下の労働力人口(黄色)が減っているのに、高齢化率は増えており、特に6574歳(茶色)よりも後期高齢者と呼ばれる75歳以上(水色)の方が多くを占めていくことである。個人差はあるものの75歳を境に医療・介護のお世話になる人達は急増することが分かっており、そのための社会保障費をどうするかが現在の最大の課題である。そのため、行政や経済界からは、この難局を超えようと色々な案が提示されている。また、行政や経済に加えて定年後の長い老後をどう生きれば良いかということを論じた識者による出版物も数多く出ている。その多くは、高齢化により虚弱になる前の「フレイル」を予防するための体力・認知機能の維持の推進を謳ったものであり、高齢者になっても何らかの就労あるいは社会参加することにより、「自助」を推進させ結果的に社会保障費の増加と労働者人口の減少に少しでも歯止めをしようというものである。来年度からは70歳までの就労機会の確保を企業の努力義務とする「改正高年齢者雇用安定法」という法案までも可決されている。

 フレイル予防対策については、私が所属する東大・高齢社会総合研究機構の飯島先生、辻先生、秋山先生などの音頭もあって、国民的な活動として国民に浸透しつつあり、健康維持の意識が少しずつ高くなってきている。また、再生医療や免疫学など遺伝子工学の目覚ましい進歩により「健康寿命」の延伸も目を見張るものがある。それに対して、ICT、ロボット、AIなど先端テクノロジーはどのような貢献をしているのか、あるいはどのように生かすべきかという議論は遅れているように思われる。本ブログは、私がJSTの領域代表(PO)として取り組んできたプロジェクト「高齢社会(略称)」を通して、また、私自身が取り組んできた研究を踏まえて、テクノロジーの将来とその高齢社会への活かし方について、私見を交えて述べていきたい。次回は、そもそも「寿命」はどう定義されているのか、生物の進化の過程と重ね合わせながら考えていきたい。

 

===============================================================

BCP対策として初動対応マニュアルの作成はお済ですか?マニュアルを作成する上で、災害リストの想定が必要になってきます。リスクを想定して避難計画を立てるポイントをまとめたホワイトペーパーをご用意しておりますので、ぜひご活用ください!

↓ダウンロードはこちらから
初動対応マニュアル「災害リスク想定」

 ===============================================================

 

 

Topics: コラム

あわせて読みたい

伊福部達

Written by 伊福部達