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高齢社会を豊かにするテクノロジーを求めて  第4話 延び続ける平均寿命、健康寿命そして最大寿命

[fa icon="calendar"] 2021/03/12 10:00:00 / by 伊福部達

伊福部達

 

第4話

 

 シリーズ「高齢社会を豊かにするテクノロジーを求めて」の第4回目です。今回は「平均寿命」についてのお話です。

 

 

 

 高齢社会をテーマにした講演で、「漫画『サザエさん』に登場するお父さんの波平は54歳であった」といって驚かせる人がいる。私の著書の中でも「頭に残された一本の髪の毛を大事そうにしながら和服姿でくつろいでいる姿はどうみても隠居生活の長いご老人」というようなことを書いたことがある。実際、漫画サザエさんの連載が始まった当時(1960頃)の平均寿命を調べると、男性で65歳位となっているので、波平は老人の中に入ってもおかしくはない(図1)。しかし、平均寿命は、求め方によって少なからず変わるのである。今回も多少理屈っぽくなってしまうが、高齢社会問題で必ずでてくる「平均寿命」や「健康寿命」の話をしたい。

 

第4話_図1
図1 平均寿命の推移(生命表(厚生労働省)を基にWoomanslabo.comが作成)

 

〇ヒトの平均寿命の求め方

  平均寿命は「亡くなる人の平均が何歳であったか」、言い換えれば「ゼロ歳児が平均何年生きるか」で決められるというのは納得できるであろう。しかし、実際には、今ゼロ歳児が何年生きるかを予想するのはそう簡単なことではない。医療の進歩や生活習慣の改善などにより予想以上に長生きするかもしれない。最近話題になっている米国の研究者による著書「LIFE SPAN -老い無き世界-」(デビッド.A.シンクレア、東洋経済新報社、2020)で述べられているように、「老化は病気」であるという視点に立った老化治療の研究が急速に進んでいる。近い将来は、高齢化しても細胞や臓器などを若返らせる薬や治療法が現実的なものになり、最大寿命も大幅に延びるとのことである。逆に、世界大戦争や昨年から続いている新型コロナ・パンディミックなどにより多くの元気な人たちが亡くなるかも知れない。生まれてから亡くなる間に生存に関わることが時々刻々と、また想定外に変化するのである。そのため平均寿命の割り出し方は結構複雑になり、その求め方も様々である。

 まず、「平均寿命はある年の年齢別死亡率を用いて『生命表』によって計算される」と定義される。生命表というのは、誕生日(一般に1年間の中心の7月1日とする)から次の誕生日までの一年以内に死亡する確率を年齢ごとに表したものである。例えば、生命表に基づいて、100人の0歳の人が1年後の1歳になるまでに3人亡くなるとすれば、死亡率は3%で生存数は97人となる。同様に、1歳の100人が2歳になるまでに4人亡くなるとすれば死亡率は4%で生存数は97人×96%で約93人になる。この生存数を年齢ごとに示すと、図2のような「生存数曲線」と呼ばれるカーブになる。国が発表する生存数曲線は、5年ごとに行われる国勢調査の結果から10万人を対象として、また、「最大寿命」を100歳までとして、そこまでの年齢ごとの生存数を示している。なお、ここでは最大寿命は厚労省の2009年度の調査により98歳未満の男性と103歳未満の女性としている。ただし、最大寿命は医療などの進歩のお蔭で大きく延び続けている。

 「平均寿命」は、生存数の合計つまり生存数曲線が囲む面積を10 万人で割り算した値となる。直感的に捉えるには、平均寿命は図2上図に示したように、①の白い部分と➁の赤い部分の面積が等しくなるときの年齢と考えれば良い。極端な例として、生存数が図3の実線のように、0歳から100歳まで直線的に減少する場合、生存数曲線が囲む面積は全体の半分になるので、平均寿命は50歳となる。

 

〇健康寿命、平均余命、最大寿命とは

 

第4話_図2図2 平均寿命の求め方(朝日新聞(2020年9月26日)より

 

 ただし、平均寿命が82歳だといって、80歳の人があと2年しか生きられないと嘆く必要はない。生存数曲線で今の自分の年齢の所で縦線を引き、そこから先の白い面積(①に相当)と赤い面積(➁に相当)が同じところになるときの年齢が「平均余命」となる。したがって、今80歳の人ならば平均して90歳前後までは生きることになる。ところで、ただ長生きさせるだけでなく、いかに健康で長生きしてもらうか、つまり「健康寿命」を伸ばすことが医療における最も重要で役割であるが、健康寿命の定義や求め方は意外と主観的であり、その手法も様々である。我が国で、一番多く使われているのがサリバン(Sullivan)法と呼ばれるもので、「日常生活に制限のない期間の平均 」、「自分が健康であると自覚している期間の平均」、「日常生活動作が自立している期間の平均」などの主観的な値で評価されている。要介護度で言えば、要介護2まで至らない範囲の寿命を健康寿命としている。この健康寿命を生存数曲線の中に重ねると、高齢化するほど両者の差が広がることが分かる。言うまでもなく、健康寿命を平均寿命に近づけることは、医療費とも関連し高齢社会問題の大目標でもある。

 最近では、健康寿命に加えて最大寿命をどこまで伸ばせるかが、医療界のトピックにもなっている。例えば、前述の一般向けに書いた著書「LIFE SPAN」の中では、最近、「老化」のメカニズムを調べた研究は目覚しく進歩してきており、それは「一つの『革命』の幕開けであるだけでなく、新たな『進化』の始まりでもある」と、夢を熱く語っている。もうすぐ人生120年時代がくるであろうと予測しているが、この夢については後の回で話すこととし、平均寿命、平均余命、健康寿命、最大寿命の違いを少しでも分かってもらえれば幸いである。

 

〇サザエさん時代の本当の寿命は?

 漫画サザエさんが登場した当時の生存数曲線は直ぐに見つけられなかったので、朝日新聞(2020年9月26日)に載っていた1891年の曲線を例にとる。すると図2の下図のよう、0歳からの寿命を平均寿命とすると、白い部分と赤い部分の面積が等しい時の年齢になるので、1891年の場合には約37歳ということになる。しかし、昔は乳幼児の死亡率が現在よりも圧倒的に高かったので、平均寿命はその死亡率に引っ張られてしまう。実際、0歳を外して1歳からの平均余命を求めると、50歳は超えることになり、平均寿命と比べると大きな違いがある。波平の時代も乳幼児の死亡率が今よりは高かったことを考えると、1歳以上の平均余命は70歳を優に超えていたであろう。サザエ漫画の波平の歳なら、現代風に描くとすれば、ダンディな髪型にして、洒落た洋装姿でソファーに座ってワインでも飲んでいるような若々しい姿の方が相応しいといえる。

 

第4話_図3図3 カエル、スズメ、ヒトにおける生存数(対数)%

 

 では、一回の産卵に多くの卵を産むような動物だと平均寿命はどうなるのであろうか。池に棲むカエルを例にとって、その生存数曲線のパターンを示すと図3の点線のようになる。誕生後は急激に生存数が減ってくるので、この産卵の時点をカエルのゼロ歳とすると、平均寿命は極端に短くなってしまう。また、スズメのような小鳥の生存数曲線は図3の実線のように直線的に下降しているので、平均寿命はカエルとヒトの中間になる。ただし、3パターンとも最大寿命を同じ年齢にしているが、それも考慮すると3者ではさらに開きがでてくる。ヒト以外の動物までに広げると話しは尽きないが、平均寿命と一概に言っても一筋縄ではいかないことを分かってもらえたらと思う。読者の家で飼っているペットたちの平均寿命はどの位かを調べてみるのも、ペットとの短い付き合いを深める上で役に立つかも知れない。

 

〇「高齢社会」プロジェクトの大テーマ

 高齢化しても若々しく生き続けていきたいと願うのはヒトの本能でもあり、それを実現しようとするのは医療の大目標であり、医療に携わる研究者や現場の人たちの惜しまない努力が続いている。また、「人生100歳時代」と呼ばれるようになるとともに、健康寿命を延ばすための健康食品は薬屋の棚に所狭しと並び、健康のためのハウツウ本もおびただしいほど出版されている。健康のためなら死んでも良いと言わんばかりの高齢者も増えているように感じる。

 私の同期会の集まりでは、まず、自分の病気を披露するところから始まり、孫たちと趣味の自慢話と続き、お墓をどうするかという議論で終わることが多かった。しかし、体は元気だが長い老後をどのように過ごしたら良いのか、とくに生活費を得るために、あるいは今までの経験を生かすために働きたくても働く場がないと悩んでいる仲間も明らかに増えている。それは個人差が大きくて共通する答えを出しようがないのかも知れないが、平均寿命と共に健康寿命が伸び続けている時代、多様な「老後の生き方」に応えることは避けて通れない課題である。
JSTのプロジェクトでは、寿命延長ために成し遂げた医療の成果を横目にしながら、長い高齢の期間を心身ともに豊かに生きるために、AI(人工知能)やロボットなどの先端テクノジーで何ができるかを中心のテーマとすることにした。とくに社会や生活環境と強く関わりを持つ「感覚」「脳」「運動」の機能が弱ったのを助け、年をとっても働ける機会と場所が得られるようにするところに重点を置くことにした。

 2010年の初め、このような大テーマをプロジェクトの中心に据えることにしたのであるが、AIやロボットなどの先端テクノロジーが幾ら優れた機能を持ってきたとしても、健康寿命を延ばしたり希望する生き方に応えたりするのに、どこまで役に立つのかはあまり自信がなかった。次回は、ヒトの脳とコンピュータの進化の違いを述べながら、先端テクノロジーをどのように活かしたら良いのかという基本的な問題を考えたい。

 

 

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Topics: コラム

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