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企業の「感染症パンデミック」への備え(事前準備・対策編)

[fa icon="calendar"] 2020/03/10 11:11:57 / by 高荷 智也

高荷 智也


企業におけるパンデミック対策 

 前回の「企業の「感染症パンデミック」への備え(状況編)」に引き続き今回は、企業における感染症対策・パンデミックBCP事前準備と対策について解説します。

 

■直接的な感染防止対策を行う

 「感染症によるパンデミック」対策として、まず徹底をしたいのが社内の感染防止対策です。飲食店などの場合は、日頃から食中毒やノロウイルス対策などを万全に行っていると思いますが、一般企業の場合は感染症の流行拡大にあわせて対策を実施する必要があります。

 

□感染ルートと対策方法を確認する

 感染対策の実施には、流行中の感染症がどのようなルートで広がるのかを確認する必要があります。例えば、O157やノロウイルスなどによる食中毒は、経口感染で感染するため、調理時の手洗いや器具の消毒が重要になります。

 一方、パンデミックが想定されている新型インフルエンザ、現在流行中の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などは、「飛沫感染」と「接触感染」が感染ルートです。今回はこの2点に対する対策を紹介します。

 

□「接触感染」を防止する

 「接触感染」は、感染者が自分の咳やくしゃみを手で受け止め、その手で周囲の「設備・モノ」に触れることでウイルスが拡散。この「設備・モノ」に付着したウイルスを他者が触り、その手で自分の目・鼻・口などの粘膜に触れることで感染します。対策としては以下の通りです。

  • 洗面所にハンドソープを設置し、こまめな手洗いを実施する
  • 出入り口に消毒用エタノールなどを設置し、外からオフィスに入る際、なにかモノに触れる前に手指の消毒を行う
  • 自分の目・鼻・口を触れないように注意する、マスクを付けることも有効
  • 室内のドアノブ・スイッチ・手すり・トイレ周り・PC・複合機など、触れやすい場所を次亜塩素酸ナトリウムや消毒用エタノールで消毒する。社内で感染者が発生した際の消毒対象もこれらとなる。

 

□「飛沫感染」を防止する

 「飛沫感染」は、感染者の呼吸・せき・くしゃみで拡散をする、ウイルスが含まれた「飛沫」を、他人が直接吸い込むことで発生します。対策として想像しやすいのはマスクを付けることですが、いわゆるドラッグストアなどで手に入る「普通の高機能マスク(サージカルマスク)」は、顔とマスクの間に隙間ができますので、完全に飛沫を防止することはできません。

 一方、感染者がマスクを着用した場合、飛沫を周囲にまき散らさないための効果は期待できます。マスクは、「自分への感染を防ぐ効果は限定的」だが「他人へ感染させないための“咳エチケット”補助効果はある」ものなのです。

そのため、従業員全員がマスクを着用すれば、オフィス全体での感染リスク低下効果が得られます。接客業の場合、マスク着用をNGとしていることもあるかもしれませんが、「お客様を従業員による感染から守る」という名目もありますので、掲示物などで理解を求めた上で、マスク着用をするとよいでしょう。

 

 ■間接的な感染防止対策を行う

感染症の致死率が高い、あるいはまだはっきりしないウイルスによる感染症が広がる場合は、さらなる対策の強化が必要になります。前述の直接的な対策に加えて、対面による接触時間を最小化する対応が必要です。ポイントとしては、「密室」を避け、「集団」化させず、「距離」を取ることがあげられます。

 

□不要不急の会議や出張の抑制

 まずは「会議」の抑制です。密室で、複数人が、長時間にわたり会話を交わす会議は、万が一感染者が参加していた場合に、重大な感染ルートになる可能性があるためです。重要でない会議・集会・朝礼などをできるだけ減らし、時間を短くし、どうしても必要な場合は全員がマスクを着用、会議前後に会議室のドア・スイッチ・机・ホワイトボード器具などを消毒するなどを実施します。

 「出張」の抑制です。新幹線や航空機などを用いる長距離移動は、不特定の方と長時間空間を共にするため、飛沫感染・接触感染が生じやすい環境になります。また自社周辺での感染者が少ない状況で、感染者の多い地域や大都市へ移動することも感染確率を高めることになります。不要な出張を一時的に減らすこと、会議を含めてオンラインでの対応に切り替えることなどが必要です。

 

□時差出勤の実施や通勤手段の拡大

 さらに対策を推進する場合は、通勤や業務空間における人との接触を減らす対応を行います。都市部に事業所があり、電車通勤を行っている従業員が多い場合は、「時差出勤」を検討します。また、徒歩・自転車・自動車による通勤ができる従業員には、これらの方法を推奨することも有効です。

 濃厚接触による飛沫・接触感染が非常に生じやすい、満員電車に乗らせないようにすることで、通勤時の感染確率を低下させることができます。このような変則通勤制度は、台風や大雪などの影響で鉄道の遅延や計画運休が行われる際にも有効ですので、感染症対策に限らず導入をしておくと役立ちます。

 

□リモートワークによる在宅勤務

 またリモートワークによる在宅勤務を行わせることができれば、通勤やオフィス内の濃厚接触による感染リスクを大きく下げることができます。業種によってはリモートワークが難しい職種も多くありますが、ひとりの出社を減らすことが出来れば、それだけオフィスにいる他の従業員への感染確率を下げることができますので、「全員ができないからやらない」のではなく「ひとりでも出社を減らし、出社必須な人を守る」という考え方が必要です。

 リモートワークによる在宅勤務は、大地震や浸水害などの自然災害発生時にも極めて有効な対策となりますし、平時の労働環境改善にも効果があります。また非常時にのみ取り入れる制度や仕組みは、非常時にうまく運用できない可能性もあります。BCP専用にするのではなく、できるだけ平時から活用できるようにし、非常時に「も」使えるようにするのがよいでしょう。

 リモートワークによる在宅勤務が難しい業務については、出勤者の人数を減らす準備が必要になります。感染のピーク時に最低現維持しなければならない業務はどれか、その業務を行うために最小限必要な人員は何名か、などを確認しておき、最低限の人数で回せるようにするための準備です。出勤者を減らすことができれば、それだけ社内感染の可能性を低下させることができるためです。

 これらの対策は、あくまでも「致死率の高い感染症が国内で大流行」する場合の対応となります。流行シナリオをきちんと把握し、冷静な対応を行えるようにしましょう。

 

  

■在宅勤務ができない業種・店舗などの場合

 リモートワークがそもそも行えない店舗業、または製造業はどうすればよいでしょうか。いくつかの考え方を紹介します。

 

□仕入ができなくなった場合の対応を検討する

 流行が拡大すると、自店舗と同じく取引先の営業も難しくなってくる場合があります。小売業や飲食店の場合、仕入ができなくなるとそもそも営業が不可能となりますので、事前対策が必要です。一般的には次の2点を組み合わせることになります。

  • 仕入ルートを平時から複数持つようにする
  • 長期保存可能、かつ営業に不可欠な物品については在庫を多めに持つ

上記はパンデミックだけでなく、その他の自然災害にも有効な準備ですので、優先度の高い物品から検討をしておくとよいでしょう。

 

□外注依頼ができなくなった場合の対応を検討する

 仕入と同様に、清掃や各種のメンテナンスといった外注サービスも利用できなくなる恐れがあります。このような状況に対する考え方も前述の通りで、以下の様な準備を行うことになります。

  • 外注先を平時から複数持つようにする
  • 一時的に社内で対応できるよう、必要な資機材やスキルを準備しておく

 ただし、仕入や外注ルートを分散化したり、在庫を増やしたりという行為は、平時に行うコストダウンとは真逆の行為になってしまうため、バランスを取ることが重要です。ルート確保だけ、在庫増加の準備だけ、手作業用の資機材準備だけはしておき、平時はこれらを使わず、感染症流行拡大のニュースが出はじめた瞬間に対応を取る、といった瞬発力のある対応を取る方法もあります。

 
□変則的な営業の準備を検討する

 さらに感染が拡大すると、社内に感染者がいない場合であっても、社会的な空気・要請により、通常体制での営業を継続することが難しくなる恐れがあります。特に「接触感染」「飛沫感染」の原因となる対面営業が行いづらくなるため、「非対面営業」の計画を立てて置く必要があります。

  • 小売りの場合は店舗営業を停止し、配達のみで営業を続ける
  • 飲食店の場合も店舗営業を停止し、テイクアウト・デリバリーの提供に切り替える
  • パンデミック時に需要が高まる商品や必需品を箱詰めにし、店内ではなく店舗の外で臨時販売する。釣り銭が極力不要な金額を設定し、顧客と接触する時間などもできるだけ減らす

 例えばこのような計画を立て、何を準備しておけばこのプランを実行できるか、という検討を行って必用な資機材を準備しておくことになります。

  

■終わりに…長期戦への覚悟と資金繰りを計画する

 「発生日が復旧開始日」である大地震や浸水害と異なり、感染症によるパンデミックは、流行が拡大した場合、その影響が数週間~数ヶ月間継続することがあります。経営に影響を与える期間が長期にわたる恐れがあるため、防災対策の延長である「手指消毒やマスクの備蓄」だけでなく、BCP・事業継続計画が必要になります。

 また、物理的な被害は生じないものの、長期の売り上げ低下や、営業停止時の固定費確保は求められるため、リスクファイナンスによる資金繰り計画を立てることも重要になります。

前編の「企業の「感染症パンデミック」への備え(状況編)」もお読みくださいください。

 

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Topics: BCP情報, パンデミック

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