Bitis ブログ

高齢社会を豊かにするテクノロジーを求めて 第9話 多様化するコミュニティの中、その2「ポケモンGO」の出番

[fa icon="calendar"] 2021/10/01 14:04:18 / by 伊福部達

伊福部達

 

第9話

 

 シリーズ「高齢社会を豊かにするテクノロジーを求めて」の第9回目です。今回は「スマホ・ゲーム」についてのお話です。

 

 

〇産業革命、情報革命で生まれたコミュニティ

 第8話では、図1(a)(8話の図2の再掲)に示したように、職場と生活圏が重なっているコミュニティでは知識、経験、スキルを持った長老たちが活躍していたという話をした。ところが、産業革命を経てから仕事の分業化が進んで職種が極めて多様になり、その上、移動手段の発展と普及により、図1(b)に示したように、職場と生活圏がますます離れていった。ただし、産業の面からみると、分業化と情報化により新製品が効率よく作られ、それが地域や国を超えて逸早く売れるようになるなど、グローバル化により我々は図りし切れないほどの恩恵を受けている。

 

第8話_図2図1 多様になったコミュニティの形態 (a), (b), (c)

 

 一方では、あまりにも急速なグローバル化により、ものの考え方や感じ方までもがテレビやネットに出て来る識者に同調するだけになり、自分自身で考える人が少なくなってきている。しかも、図1(c)の破線で示したように、ネットワークだけで繋がる新しいコミュニティが次々と生まれてきている。それらはFacebookやTwitterなどのSNSに代表されるように、職場や地域の枠を超えた、気の合う仲間たちによる仮想的なコミュニティである。

 狩猟と採取の世界でゆっくりと時間をかけて育ってきた遺伝子や古い体系のコミュニティが急速に変化するテクノロジーに付いて行けず、戸惑っている人たちが明らかに増えている。そして、スマートフォン(スマホ)が席巻するような高度な情報化社会になってからは、ますますコミュニティにおける高齢者の出番が少なくなった。ただし、SNSという道具は、新しいコミュニティの形成ばかりでなく、ユーザの要望とメーカの工夫次第で、健康管理のセンサになったり、昔の友達と話し合うテレビ電話になったりする。そこにSNSを活かす道があるはずである。

 

〇ポケモンGO、三途の川を渡る

 数年前に「ポケモンGO」(図2)というスマホを使った一種のゲームが社会現象ともなるほど大流行したことがある。私がVR(バーチャルリアリティ)学会の会長をしていた7、8年ほど前に、学会の中に「超高齢社会のVR活用」という研究会を立ち上げた。それに関連してVR学会誌に「ポケモンGO、三途の川を渡る」というタイトルで雑文を寄せたことがある。

 

第8話_図3
図2 「ポケモンGO」のスマホ画面の例

 

 「ポケモンGO」は、スマホのカメラで捉えた映像に、お馴染みのポケモンキャラクターの画像を重ねてスマホ画面上に表示する拡張現実(AR)と呼ばれる手法を使っている。スマホを持って外で歩いていると色々な所でポケモンがカメラ映像に重なって現れ、それを次々と捕獲・育成・交換することによってご褒美を得ることができるゲームである。ただし、あまり夢中になってポケモンを探している内に、うっかり「三途の川」を渡ってしまう危険性もはらんでいる。上述の雑文は、このゲームには面白さと危うさが共存していることを書いたのであるが、同時に楽しい気持ちのまま三途の川を渡ることができれば、先の短い高齢者にとっては、それはそれで良いのではと、その時は言いたかった。

 一方では、ポケモンGOのように、情報通信技術(ICT)を上手く使うことによって、家に閉じ籠りがちな高齢者に「さあ、外に出よう」と誘う道具になるし、歩きながら画面に出て来る映像から色々な知識を得たり発見があったりする。そしてそこで出会った仲間たちによる一種の「コミュニティ」が生まれる可能性もある。そのような期待があったのであるが、「歩きスマホ」を誘発し転倒も増えると警告され暫くは鳴りを潜めてしまった。ところがコロナ禍のため家で自粛を強いられるようになってから、ポケモンGOを持って近所に散歩に出たり、家の中で体を動かしたりする高齢者が増えたと言われている。そのため、健康増進や友達を作るという役割も再認識され、今では中高年や高齢者に合わせた健康アプリなども次々と現れている。高齢社会を豊かにするテクノロジーのうち、どれが有効でどれが消えてなくなるかは私どもにも予想がつかないが、ポケモンGOは一つのヒントを与えてくれる。

 

〇絞られていくキイ・テクノロジーの候補

 この10年位の間に、社会の情報化は爆発的に進むことは想像されていたが、その中でもロボットとスマホの進化は凄まじいし、高齢化と情報化によるコミュニティの多様化も著しい。このような大きな変化の渦巻く時代がくる前に、高齢社会を豊かにするテクノロジーを的確に予測することは確かに難しかった。ロボットとスマホは間違いなくキイ・テクノロジーになることは予想されたが、どのように活かしたら良いのかが分からなかった。それを示すのがJSTの高齢社会プロジェクトの役割であったはずである。しかし、一方では、候補となるテクノロジーの絞り込みのために、私どもが何を考え議論したかを振り返ると将来に向けた手掛かりやヒントが満載していることに気が付く。次回からは、その手掛かりとなる話について順を追って述べていきたい。

 

===============================================================

BCP対策として初動対応マニュアルの作成はお済ですか?マニュアルを作成する上で、災害リストの想定が必要になってきます。リスクを想定して避難計画を立てるポイントをまとめたホワイトペーパーをご用意しておりますので、ぜひご活用ください!

↓ダウンロードはこちらから
初動対応マニュアル「災害リスク想定」

 ===============================================================

 

 

Topics: コラム

あわせて読みたい

伊福部達

Written by 伊福部達