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初動対応マニュアルの作成 第9話「緊急対応 – 非常時の行動基準」

[fa icon="calendar"] 2019/03/25 14:46:25 / by 高荷 智也

高荷 智也


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シリーズ「初動対応マニュアル」の10回目、最終回となる今回は「非常時の行動基準」について解説します。

さて、20186月に生じた大阪府北部の地震は、平成以降で初めてとなる「大都市」の通勤時間を襲った大地震でした。都心部への物理的被害、大規模な停電や通信障害こそ生じませんでしたが、8時16分という朝のラッシュ帯を直撃する時間に大地震が発生したこともあり、会社に連絡をしても上司はまだ出勤しておらず、徒歩で出社すべきかそれとも帰宅すべきか、判断に迷われた方も多かったのではないでしょうか。

 非常時に備えた行動基準は2つに分けて考えます。ひとつはこの地震のように、突発的な災害が発生し、会社から指示を出せない場合の基準。もうひとつは台風のように、事前に指示が出せる状況での基準です。また事業内容に応じて、「非常時に取りやめることができる業務」と「非常時にこそ必要となる業務」が存在しますので、出勤させないための基準と、逆に出勤をさせるための基準、双方を検討する必要があります。

  

①   台風など事前察知が可能な災害時に、出勤させないための基準

 

 台風が接近している場合や気象警報が発令されている状況で、従業員を就労させてはならないという法的な定めはありません。しかし、暴風のさなかに出社を命じ(逆に言えば自宅待機を命じず、従業員が会社の規定に則って“自主的に”出社をして)、道中で死傷した場合には、安全配慮義務違反を問われ、巨額の損害賠償請求に応じなければならない可能性があります。

 台風接近時のルールを「ブラック」寄りにするも「ホワイト」寄りにするも、企業の判断しだいですが、考えるべき項目は「行動基準」の作成と「就業規則」の見直しとなります。行動基準は、台風の状況に応じて「休業・時差出勤・早退・在宅勤務」などの指示をどのように下すかというルール作り。就業規則は、これらの指示が下された場合の賃金などを定めるためのルールです。

 まず、「災害時に原則として営業を取りやめる」ことができる企業の場合を想定します。台風などが接近している場合に、翌日の休業や時差出勤を定めるための情報としては、「鉄道の運行状況」や「気象情報(警報級の可能性)」などが参考となります。自社が都市部にあり、従業員の多くが鉄道で出勤をしている場合は、鉄道事業者から発表される翌日の運行情報が最も分かりやすく、かつ現実的な行動基準となります。

 近年、都市部の鉄道事業者は、台風接近の前日などに翌日の運行計画を発表することが多くなりました。鉄道が動いていないのであればそもそも出勤することは困難ですし、鉄道が停止するほどの災害が想定される状況においては、従業員の被災も考慮しなくてはなりません。自社が都市部にある場合は、このような情報を参考にするのが適切でしょう。

 一方、自社が地方にあったり、従業員の多くが車や自転車などで通勤をしていたりする場合は、気象庁から発表される「警報級の可能性」が参考となります。「警報級の可能性」は2017年より運用が開始された気象情報で、「警報級の現象が5日先までに予想されているときには、その可能性を「警報級の可能性」として「高」「中」の2段階の角度を付けて発表」するとされています。

 翌日を対象とした「警報級の可能性」は、毎日5時・11時・17時に発表される天気予報とあわせて発表されるため、当日の帰宅時間帯~翌朝に「大雨・洪水・暴風」といった警報級の可能性[高]が想定される場合は、「休業・時差出勤・在宅勤務」などを指示する、あるいはその可能性が高くなることをルールとして定め、マニュアルにまとめておくとよいでしょう。

 

 

②   台風など事前察知が可能な災害時に、出勤させるための基準

 

 行政機関・医療機関・ライフライン事業者・金融機関・マスコミなど、災害時の稼働が必須となる企業は、上記とは逆に出社をするための基準や環境の整備が必要となります。翌日の鉄道の運休や、警報級の可能性が発表されている場合、従業員を自宅待機させたり、あらかじめ社内および客先や保守設備へ出社させ、寝泊まりをさせておいたりといった準備です。

 災害発生前ですから、通勤手段は平時のものが使えます。しかし発災後にライフラインが停止する可能性がありますので、社内に宿泊ができるような設備・備蓄品の準備を、あわせて行う必要があります。こうした計画を立てるためには、初動対応マニュアルだけでなく、BCP策定において、非常時に継続すべき業務、これに必要な従業員の数などを洗い出しておく必要があります。自社にとって重要な「中核事業」や「重要業務」を災害時に行わなければならない場合は、非常時に出勤させるための対策を検討しなければなりません。

 なお、非常時に稼働が必要な業務の中でも、デスクワークやPC作業が中心になる業務は、テレワーク環境による在宅勤務を行うことができる場合があります。しかし非常時専用に環境を構築し、災害発生時にいきなり適応しようとしても、「つながらない」「できない」「分からない」など、想定外の事態が発生し、うまく機能しない可能性が高くあります。

 そのため、非常時に在宅勤務をさせることを検討している場合は、日頃から在宅ワークに関するルールを定め、平時から実践させ、非常時にもスムーズな対応ができるようにしておく必要があります。台風接近時においても、在宅勤務環境が整っていれば休業にせず業務を維持できますので、有効な対策と言えるでしょう。

 

③   大地震などの突発的な災害時に、従業員が個別判断をする基準

 業務時間外や通勤時間帯に大地震などが発生し、会社と従業員間の連絡がとれなくなった場合は、原則として自分が出社すべきなのか帰宅してよいのか、従業員が個々に判断をくだせるような基準を定めておくことが重要です。原則的には、非常時に止めてもよい業務の担当であれば帰宅、非常時に行わなければならない業務の担当であれば出社ということになりますが、まずこれを本人が理解しているかが重要です。

 帰宅してもよい従業員に対しては、「何かしらの災害が生じ、会社から指示がない場合、または連絡が取れない場合は、公共交通機関が再開するか、会社と連絡が取れるようになるまで、出社停止とする」などが基準となります。この様な基準をきちんと適用するためには、災害による出社停止時の具体的な勤怠ルールについて、就業規則などで定めて周知しておくことも重要です。

上記と逆に、出社が必要な従業員に対しては「何かしらの災害が生じ、会社から指示がない場合、または連絡が取れない場合は、身の安全が確保できる状況にかぎり、何かしらの交通手段により出社する」というような基準が必要になります。また初動対応の範疇からは外れますが、

  • 徒歩出社の圏内に従業員を住まわせるような家賃補助制度を作る
  • 自転車やバイクでの出勤をさせるため、通勤ルールを定めて平時から運用する

など、出社要員を確保するための対策をあわせて検討したり、物理的に出社が可能なメンバーで事業継続体制を検討しておき、この内容をBCPの一環としてマニュアル化したりといった対応が必要です。

 

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