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BCPの前提!企業の防災対策 第3話「従業員の命を守る地震対策」

[fa icon="calendar"] 2017/08/21 12:00:00 / by 高荷 智也

高荷 智也

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事前準備が生死に直結する地震対策

 BCPの前提として行う「従業員の命を守る防災対策」、最初に実施すべきは地震対策です。発生地域に特性がある水害・土砂災害・噴火災害と異なり、地震は日本中どこにでも最大規模の被害をもたらす可能性があるためです。

大地震の被害は減らすことができる

 水害や土砂災害など物理的な破壊力を持った災害を一企業の努力で無効化することはできませんが、地震は万全な準備を行うことで被害を最小限にとどめることができます。

大地震は恐ろしい災害ですが、客観的に見れば「地面が揺れる」という自然現象に過ぎませんので、実際に被害が生じるかどうかは「揺れた結果なにが倒れるか・崩れるか」で定まります。強い揺れに襲われても「何も倒さない・崩さない」準備ができていれば、地震被害を最小限にとどめることができるのです。

 

命を守るための地震対策と、事業継続のための対策を分ける

 一方、地震対策は突き詰めればどこまでもコストをかけることができるため、一定の線引きをすることが重要です。まずは従業員の生命に関連する対策から予算を投じ、重要だが人命には直結しない対策については、中核事業の設定や経営資源の洗い出しといった優先順位を定めてから取り組むと良いでしょう。

 

建物の地震対策

 地震対策の中で最も重要な項目は「建物対策」です。どのような準備をしていても、建物が倒壊してしまえば全て無意味な対策となりますので、まずは自社の拠点を物理的につぶさないための対策を講じます。逆に言えば、自社の建物が比較的新しい場合、最も重要な防災対策はすでに完了していると考えることができるのです。

 

建物の築年数を確認する

 建物の耐震性を確認する際に参考となるのが、築年数です。建物の地震に対する設計上の強さは、建築基準法の耐震基準で定められていますが、この基準は国内で大地震が生じるたびに改正され続けているため、より新しい基準で建てられている建物ほど地震に対する強度も増していると考えられるためです。


1981年6月1日より新しいか古いか

 最低限満たすべき耐震基準は、1981年6月1日に改正された建築基準法によるものです。この改正による耐震基準は一般に「新耐震基準」と呼称されますが、この日付よりも後に「建築確認申請」の許可を受けている建物は、震度6強クラスの大地震の直撃を受けたとしても、設計上は即座に倒壊しないことになっています。
 実際、1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震などの大地震でも、新耐震基準を満たした建物の被害は、それ以前に建てられた建物の被害と比較して小さなものになっています。まず自社の建物が「新耐震基準」を満たしているかどうかを確認し、満たしていないのであれば、移転の計画や耐震補強工事の計画を立てることが最優先となります。

 

室内の地震対策

 建物の対策が完了した、あるいは目処を立てたら、次に建物内部の対策を実施します。具体的には、地震の揺れで転倒や移動をすると従業員に危害を加える恐れがある什器や設備を固定したり、ガラス扉などに飛散防止処理を施したりといった対策を講じていきます。
 オフィスで使用されているスチールキャビネットや複合機、店舗用の陳列棚、工場の工作機械など、業務用の什器や設備は家庭用のものと比較してサイズや重量が大きいものが多いため、地震の揺れで転倒し人に直撃した際には大きな被害をもたらす可能性が高くなります。そのため建物への固定が欠かせません。

 

什器・設備の転倒防止対策

 最も理想的な固定方法は、什器や設備を床や壁下地の鉄骨・コンクリートなどと直接ボルトで固定することです。足下と上部をネジやボルトでがっちりと固定してしまえば、大地震の直撃を受けて強い揺れに襲われても転倒する可能性を小さくすることができます。壁面への直接固定ができない場合は、突っ張り棒やジェル式の器具などを併用して転倒に備えます。
 床に直接アンカーが打てる場合は床へ直接固定すると効果的です。床が配線を通すための上げ床(フリーアクセスフロア)になっている場合は、床パネルを補強材で固定し、長いアンカーボルトで直接床材へ固定します。これらの方法がとれない場合は、壁面固定と床の簡易固定を併用するなどします。
 壁面に面していない場所に棚やパーテションなどを設置する場合は、什器同士を連結してできるだけ床との設置面積を増やし、安定度を高めるようにします。また重量物を棚の下の方に収納するといった方法も有効です。コピー機や複合機などキャスター付きの受領物も、ベルトやアジャスターを使って必ず固定してください。
 いずれの場合も、激しい揺れで最終的に什器が転倒してしまう可能性はありますが、その場を離れたりデスクに潜り込んだりする時間が稼げればまずは目的を達することになります。

落下防止対策

 棚やキャビネットを固定しても、地震の揺れで扉が開き中の重量物が落下してしまえば意味がありません。特に高い位置やある開き扉については、ロック付きのものにするかラッチを設定して、地震の揺れで開かないようにしておきます。また重量物や鋭利な物はできるだけ低い場所に収納しておくということも有効です。

 

ガラスの飛散防止対策

 窓ガラス、キャビネットのガラス扉、蛍光灯など、割れる凶器になるガラス製品に対しては、飛散防止対策を行います。飛散防止用フィルムをガラスに貼りつけたり、専用チューブを蛍光灯に巻き付けたりすることでガラスの飛び散りが防げます。ガラスが割れるとケガの原因になるばかりか、避難や業務の仮復旧の妨げとなるため、できるだけ対策を講じましょう。

避難ルートの確保

 オフィス・店舗・工場などのレイアウトを設計する際には、非常時の避難が円滑にできる配置であるかを意識することが重要です。ドアや重要な通路をふさぐ位置に転倒物を設置しないこと、背の高い設備で避難誘導灯が見えなくならないことなど、室内の見映えや作業効率に合わせて、非常時の移動経路についても検討してください。

 

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高荷 智也

Written by 高荷 智也