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緊急地震速報チャイム誕生の裏話 第11話「選ばれたチャイム音とその運用」

[fa icon="calendar"] 2020/06/17 14:42:46 / by 伊福部達

伊福部達

 

第11話

 

 シリーズ「緊急地震速報チャイム誕生の裏話」の11回目です。今回はいよいよチャイム音が完成します。

 

 

第11話_1

図1 候補に残った5つのチャイム音

 

 候補に残った5つのチャイム音を復習すると、①Aの音型で2つ目の5連音を半音上げたもので「遅い」テンポ、②Aの音型に「半音トリル」を加えたもので「遅い」テンポ、③Aの音型で「速い」テンポ、③Aの音型に「半音トリル」を加えたもので「速い」テンポ、⑤Bの音型で2つの5連音が「同じ高さ」で始まる速いテンポ、である。ただし、5連音が同じ高さで始まると、「急がせる」あるいは「行動したくなる」感じは無かったのであるが、一応、⑤も候補として残した。いよいよ最終的な絞り込みをするための実験2が始まった。これはチャイム音の5ヵ条に照らし合わせて、どれが最もふさわしいかを決める最終決戦である。

 

<最終決戦が始まる>

 5個の候補音(①、②、③、④、⑤)の中から2個のチャイム(①と②とする)を抽出し、①の後に3秒間ずらして②を聞かせ、①と②の「どちらがチャイムにふさわしいか」を十秒間以内で質問票に回答してもらった。図1.1~図1.2は質問票とそれに答えた例である。

  第11話_図2-1

  2.1 質問票2(Q2:どちらがより緊急性を感じますか)

 

第11話_図2-2

図2.2 質問票3(Q2:より不安感を感じるのはどちらですか)

 

 1つの質問に対して組み合わせは、①-②,①-③,①-④,①-⑤、②-①、②-③,②-④、・・・、など合計で20対にもなるので、そこを区切り として小休止を取り、次の質問に移った。それぞれの項目で、①と答えた点数、②と答えた点数、・・・・⑤と答えた点数のそれぞれの合計を求めた。ただし、「チャイムのスピード」については殆どの聴取者が③と④の「速い方」が良いと答えた。チャイム音は早く出したほど効果的なので、この答えは都合が良かった。また、「既存の音とは違う」ではゲーム音や携帯着信音に似ていると答えている人もいたが、多くは聞いたことのない音であると答えていた。それで、「どちらが緊急性があるか」および「どちらが不快感を感じるか」の質問に限定して、①~⑤で点数がどのように違ったかを示した(表1、表2)。

 

第11話_表1

表1 アンケート結果1(Q2:どちらがより緊急性を感じますか)

 

第11話_表2

表2 アンケート結果2(Q3:より不安感を感じるのはどちらですか)

 

 結論から言うと、実験1の結果から⑤が外れ、実験2で「緊急性を感じる」の点数が高かった③と、「不安感を感じる」の点数の低かった③が、今回の実験でも好成績を収めた。ただし、トリルがあるチャイム④で不安感が高かったが、緊急性も高かったことから④を第2候補として残すことにした。なお、高いと答えた聴取者は全て子供であり、不安定なトリル音が子供にとっては恐怖を感じさせるのであろう。また、チャイムが終わってもトリルが続くので、今思えば大地震の後にくる「大津波」を連想させる音にもなっている。

 

<緊急地震速報チャイムの運用>

 

 以上の実験結果を受けて、最終的に「上行型/2回目が半音上がる/速い」パターンの③「トリル無し」と④「トリル有り」の音型を最終候補として N H K に提出し、最後は会長(当時)の判断に委ねた。その結果、トリル無しのチャイム③が選ばれ、実際の運用に向けて G Oサインが出た。

  検証実験を経て選ばれたチャイム音は、早速、気象庁の緊急地震速報システムに組み込まれて運用が開始されることになった。この緊急地震速報システムとは、気象庁が中心となって200681日にスタートしたものである。第1話で話したように、地震の揺れには、 P 波である「ドン」という弱い縦揺れ(初期微動)と、 S 波である「ユサユサ」という強い横揺れ(主要動)の2種類がある。この2つは震源では同時に発生するのであるが、伝達速度は P 波(秒速約7km)の方がS波(秒速約4km)より速いので、震源から遠ざかるほど2つの時間差は大きくなる(図3)。

 

第11話_図3 

図3 気象庁ホームページ「緊急地震速報の仕組み」より抜粋

 

 全国で約千箇所の観測点からのデータは、リアルタイムで東京の気象庁本庁または大阪管区気象台(バックアップ)に設置されている緊急地震速報システムに送られている。複数の観測点で受信したデータを解析して、P波が推定震度5弱を超えたときに「緊急地震速報」出すのであるから、S波が来る前にできるだけ早く出すようにしている。同時に震源となる場所や深さを知らせるのが地震警報システムの基本的な考え方である。発表された緊急地震速報は気象庁から放送局や各都道府県などの法定伝達機関に直接送られる他、(財)気象業務支援センターから利用者に送られる。N H Kでは、テレビとラジオのすべての放送波で速報を出す。

 東日本大震災の時、総合テレビでは国会中継を中断していたが、緊急地震速報の画面に切り替わり、チャイム音に続いて「緊急地震速報です。強い揺れに警戒してください」というアナウンスが流れた。チャイム音が流されるのはテレビ/ラジオだけでなく、全国に設置された防災無線や一部の大型施設でも対応するようになった。こうして、福祉工学をベースとして制作した緊急地震速報チャイムは、日本全国で聴かれるようになったのである。

 なお、本ブログでは採り上げなかったが、民放のテレビ/ラジオからはNHKの「チャラン、チャラン」だけではなく、色々なチャイム音が流されている。携帯電話から聞こえる「グイッ、グイッ」という音は、NTTドコモからの依頼により音響環境デザイナーの大御所である小久保隆氏が制作したものである。いずれも工夫が施されており、隠れた苦労やドラマがあったに違いない。是非とも機会があればお聞きしたいと思っている。

 大きな地震が来るたびに全国にチャイム音が鳴り響き、それを耳にした大勢の人たちからチャイム音の感想や批評がSNSなどのメディアを通じて伝わってきた。第12話では、本ブログの終わりとして、チャイム音の作成依頼にまつわるエピソードと東日本大震災で鳴り渡ってからの反響について話したい。

 

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Topics: コラム

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