物流DXとは、デジタル技術やデータなどを活用して、オペレーション改善や働き方改革を実現し、物流産業の在り方そのものを革新・変革することです。物流DXを通じて克服できる課題、実際に課題を克服した企業事例、実現のために押さえておきたいポイントを紹介します。
【目次】
物流DXとは?国土交通省による定義をご紹介
国土交通省では、物流DXを以下のとおり定義しています。
(デジタル技術を浸透させることで)オペレーション改善や働き方改革を実現し、物流産業のビジネスモデルそのものを革新させることで、これまでの物流のあり方を変革する(こと)
物流DXは、単なるデジタル化や機械化を意味するのではありません。デジタル化・機械化はきっかけであり、次の施策を推進することも含まれます。
- 物流DXや物流標準化を進めることで、簡素で滑らかな物流を実現し、
サプライチェーン全体を最適化する - 物流構造を改革し、労働者不足に対応する
- 強靭かつ持続可能な物流ネットワークを構築する
そもそもDXとは?
DX(Degital Transformation)とは、デジタルやデータを取り入れることで、よりよい社会にすることを意味します。2020年に経済産業省が示した「デジタルガバナンス・コード2.0」によれば、DXは持続的な企業価値の向上のために欠かせないものであり、新たな価値創造に向けた戦略を描くことも含まれます。
日本は世界的にみて、DXの取り組みが遅れているのが現状です。従来のシステムが足枷となっている企業や、ビジネスモデルの変革が足踏み状態の企業も少なくありません。
しかし、ビジネスの持続性を確保し、パフォーマンスを向上させるためにはDXが必要です。企業内にDX部門やIT部門を設け、事業部門や経営企画部門などのほかの部門と連携し、組織横断的にDXを推進することが求められます。
DX化を推進しないと多大な経済損失につながる
経済産業省の「DXレポート」によれば、DX化による全社横断的なデータ活用を実現しない場合や、有効な経営変革をしない場合は、2025年以降1年あたり12兆円もの経済損失が生じると試算されています。これを「2025年の崖」と呼び、すべての企業が危機感を持って取り組まなければいけない課題として指摘されてきました。
社会全体のDX化が進むなか、DXに取り組まないことや、DXによる業務変革を実施しないことは、企業存続を危うくする行為です。物流業界も例外ではありません。物流DXを実現し、より効率的なビジネスモデルを構築することが求められています。
物流業界の課題
物流業界においてDXを実現する前に、業界特有の課題を知っておくことが必要です。主な課題としては、次のものが挙げられます。
- 人材不足
- アナログ業務の多さ
- セキュリティ管理の難しさ
- 環境問題
詳しく見ていきましょう。
人材不足
オンラインで注文して宅配便で受け取るEC(Electronic Commerce、インターネットショッピングやネット通販のこと)の利用が増えています。また、新型コロナウイルス感染症の世界的流行によっても、EC利用は飛躍的に増えました。
このような事情により、個人向けの小口配送は増加傾向にあります。しかし、配送にはドライバーや配達員などの人材が必要ですが、少子高齢化により人材確保が難しいのが実際のところです。
アナログ業務の多さ
ほかの業界と比べて、物流業界はデジタル化が遅れているとされています。原因のひとつとしては、物流業界の業務の多くが、配送や仕分けなどの人力に頼る作業であることが挙げられるでしょう。
また、個人向け配送が増えたことも、アナログ業務の増加につながっています。個人向け配送では、企業間の大口配送とは異なり、受取手が不在のケースも多く、再配達や配送時間の調整などの人力を必要とする作業が多い傾向にあります。
セキュリティ管理の難しさ
物流業界では、個人の住所や電話番号、メールアドレスなどのさまざまな情報を取り扱います。個人情報の保護は企業の信頼性にもかかわる重要なポイントのため、細心の注意を払って情報を取り扱うことが必要です。
しかし、DX化により社内外の関係部署が増えると、情報流出の阻止が難しくなってしまいます。利便性向上のためにインターネットを用いたものの、セキュリティ対策が不十分であれば、個人情報の流出を招くことにもなりかねません。
環境問題
電気自動車も増えてはいますが、まだすべての自動車が電気で走っているわけではありません。また、チャージステーションが全国いたるところにあるわけではないため、輸送にはガソリン車などを使っている運送会社も多いです。
ガソリン車を使うと、二酸化炭素の排出量が増えて地球温暖化の一因となるだけでなく、排ガスによる環境破壊にもつながります。電動自動車や自転車、徒歩などで配送するケースもありますが、都市部などの一部に限られているのが現状です。
物流DXで実現可能な変化とは?
物流業界特有の課題の多くは、物流DXにより改善・解決が可能です。物流DXにより実現が期待される変化としては、次のものが挙げられます。
- 業務の自動化・機械化
- 業務効率の向上
- 労働環境の改善・向上
それぞれどのような変化が期待できるのか、詳しく見ていきましょう。
業務の自動化・機械化
アナログ業務が多い物流業界ですが、業務内容によっては自動化や機械化が可能なものもあります。たとえば、伝票作成や仕分けは自動化・機械化が可能な分野です。適切なシステムや機器設備を導入することで、業務の負担を大幅に軽減できます。
また、自動運転技術が発展すると、将来的にはトラックの運転なども自動化が実現すると考えられます。業務の自動化・機械化は、業務量の削減だけでなく人材不足対策にも役立つでしょう。
業務効率の向上
人力に頼っている分野も、DXにより効率性を高められます。たとえば、データを活用して最短時間で輸送するルートを割り出せば、配達員の業務量は同じでも労働時間の短縮が可能になり、結果として業務効率は向上します。
また、受取手の不在時間をリアルタイムで把握するシステムを導入すれば、再配達などの重複作業を回避でき、さらなる労働量の削減が可能です。残業時間も減り、コスト削減にもつながるでしょう。
労働環境の改善・向上
業務効率を向上することで、働きやすさも向上します。残業がなく、体力的な負担の少ない労働環境を実現することも可能です。
また、労働環境が改善されることで働きやすいイメージが定着すれば、人材を確保しやすくなるでしょう。少子高齢化により今後も生産年齢人口(15歳~64歳の人口)は減少すると試算されています。さらなる人材不足に対応するためにも、労働環境の改善・向上は急務といえます。
物流DXの事例
すでにDX化を進め、物流DXを実現している企業も多数あります。いくつかの企業事例を紹介します。ぜひ参考にして、自社に合う形での物流DXを実現させてください。
倉庫のデジタル化により待機時間を短縮
倉庫や物流センターで荷物を積み下ろしするスペース(バース)が混雑し、配送に時間がかかってしまうだけでなく、ドライバーの労働時間を増やすこともあります。ある運送会社では、接車の順番が近づくとドライバーの携帯電話に直接連絡する「バース予約管理システム」を独自開発し、バースの混雑を緩和・解消と待機時間の短縮を実現しました。
バースの混雑が解消されると、倉庫内貨物と待機トラックが可視化され、倉庫の回転効率も向上します。また、倉庫近隣での迷惑駐車や渋滞も解消されるため、企業イメージアップも期待できます。
複数倉庫を一元管理
倉庫が複数あることで業務対応可能な範囲が広がりますが、倉庫の空き状況を的確に把握していないと、倉庫間の輸送が増え、かえって業務が増えることもあります。
ある運送会社では複数倉庫を一元管理できるシステムを導入し、繁忙期でも在庫管理の最適化と効率的な荷受けを可能にしました。荷受けと出荷のスケジュール管理が容易になり、繁忙期の生産性も向上しています。
また、同システムでは、倉庫管理だけでなく、従業員のスケジュール管理も可能です。労働効率が向上し、働きやすい環境を構築できるという副次的効果も得られています。
倉庫のシェアリング
倉庫を維持するだけでも、固定費が発生します。空きスペースや遊休スペースを抱えている倉庫も多く、赤字が増大しているケースも少なくありません。
ある運送会社では、事業者間で倉庫の空き状況を把握し、無駄なくスペースを活用するシェアリングサービスを開始しました。空きスペースが無駄なく利用できるようになっただけでなく、安定した収益も実現しています。
また、デジタルサイネージを活用して、倉庫の空き状況をリアルタイムで表示する運送会社も増えてきました。実際に目で空き状況がわかるため、倉庫状況が確認できるウェブサイトやアプリを知らない人でもシェアリングサービスの利用が可能です。
荷下ろし作業を自動化
運送会社の業務のなかでも、荷下ろし作業は人力に頼ることが多い業務です。ケースによって重量や扱い方が異なるため、自動化が難しいとされてきました。
しかし、近年では不規則に詰まれたケースを判別し、自動で荷下ろし作業を実行できる機械も開発されています。導入した運送会社では、業務時間の短縮だけでなく、荷下ろし時の破損などのトラブルが減ったなどの効果も得られています。機械導入のコストは決して小さくはありませんが、長期的にみれば業務拡大と人件費の削減によりプラスになることが期待できるでしょう。
ピッキング業務の自動化
労働力不足だけでなく、重労働の作業が多いことも運送業界の課題です。とりわけピッキング業務は体力的な負担が多いとされています。
ある運送会社ではピッキング自動化システムを導入し、大幅な業務量の削減と省人化を実現しました。また、昇降機を組み合わせて倉庫内の空間を無駄なく活用し、収益増も実現しています。
物流DXを実現するためのポイント
物流業界は課題やアナログ業務が多いため、系統立ててDX化に取り組む必要があります。次のポイントに注目し、計画的にDX化を進めていきましょう。
- 情報共有システムを構築する
- 情報の活用方法を検討する
それぞれのポイントについて説明します。
情報共有システムを構築する
まずは社内外で、倉庫状況などの情報を共有するシステムを構築することが必要です。情報をリアルタイムで共有できるようになると、業務効率が向上するだけでなく、空き倉庫の活用も可能になり、収益性もアップします。
デジタルサイネージを活用しよう
オンラインでの情報共有も欠かせない要素ですが、オフラインで視覚的に情報を共有することも大切です。視認性の高い広報手段として、デジタルサイネージの導入も検討してみましょう。デジタルサイネージの活用方法や種類については、次の記事もご覧ください。
参考記事:デジタルサイネージとは ~種類と役割について~
デジタルサイネージなら柔軟な対応が可能
たとえば、デジタルサイネージを倉庫前に設置すれば、バースに並ぶドライバーに待ち状況を伝えられるようになります。また、デジタルサイネージはリアルタイムで情報を反映できるため、待ち状況を知らせるウェブサイトを何度もリロードする必要もありません。
デジタルサイネージのメリットや効果については、以下をご覧ください。
参考記事:デジタルサイネージのメリットは?効果や仕組みをご紹介
デジタルサイネージのコンテンツ配信に不安がある場合は、クラウド型サイネージ配信システム「PICLES」がオススメです。簡単に扱えるインターフェースと複数端末を一括管理できる機能性を併せ持つ、次世代型のデジタルサイネージです。お気軽にお問い合わせください。
情報の活用方法を検討する
DX化により、さまざまなデータや情報を収集できるようになります。集めた情報の活用方法を決めておくことで、さらに有意義な物流DXを実現できるでしょう。
たとえば消費者ニーズの把握やビジネスモデルの開発などにも、集めた情報を活用できます。将来につながる事業を構築するためにも、計画的に物流DXを進めていきましょう。
まとめ
物流業界が抱える多くの課題は、DX化により改善・解決することが可能です。ぜひ紹介した事例も参考に、将来性の高いビジネスモデルを構築してください。
また、デジタルサイネージを導入することで、物流DXに欠かせない情報共有を効率的に進められるようになります。リアルタイムの情報共有を実現するためにも、ぜひご検討ください。
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